営業の引き継ぎで顧客リストだけを渡しても、ほぼ確実に取引は細ります。リストに載っているのは会社名と連絡先で、実際に商売を動かしているのはそこに書かれていない経緯だからです。この記事では、顧客を引き継ぐときに何を渡すべきかを、実際に使う項目まで具体的に整理します。
リストで渡せないもの
前任者の頭の中にあって、リストには載っていないのは次のようなことです。
- なぜ買ってくれているのか:価格なのか、納期なのか、技術対応なのか、人なのか。ここを取り違えると、次の提案が外れます。
- 過去に断られたこと:何を、なぜ断られたか。知らずに同じ提案をすると、関係が悪化します。
- 決裁の流れ:誰が決めるのか。窓口の担当者が決裁者とは限りません。
- 触れてはいけない話題:過去のトラブル、社内の力関係、他社との経緯。
- 連絡の作法:メールか電話か、朝は避けるべきか、誰をCCに入れるか。
これらが渡らないと、後任は初回訪問で必ず地雷を踏みます。そして一度失った信用は、取引条件に直接跳ね返ります。
顧客ごとに書き残す8項目
全顧客ぶんを作るのは現実的ではありません。売上の大きい順、または関係が複雑な順に、上位数社から始めてください。
- 取引の経緯:いつから、何がきっかけで始まったか
- 買われている理由:価格/納期/技術/人。前任者の見立てでよい
- 登場人物:窓口・技術・購買・決裁者。それぞれの役割と関係
- 過去に断られたこと:何を、いつ、なぜ
- 過去のトラブル:何が起きて、どう収めたか。再発時に効きます
- 価格の経緯:いまの単価がどう決まったか。値引きの経緯があるか
- 連絡の作法:手段、時間帯、CC、避けるべき話題
- 次に狙っている案件:進行中の話と、その温度感
5番と6番が、最も引き継がれずに事故を起こします。前任者にとっては「済んだ話」なので、聞かれない限り出てきません。
引き継ぎの進め方(4ステップ)
- 対象顧客を絞る:全社は無理です。売上上位、または関係が複雑な数社から。
- 前任者に聞き取って、第三者が書く:本人に書かせると薄くなります。「このお客さん、なぜ買ってくれてるんですか」「過去に断られたことは?」と質問する形が確実です。聞き方はヒアリングのやり方にまとめました。
- 同行訪問する:ここを飛ばさないでください。前任者がいるうちに顔をつなぐのと、後から後任だけで行くのとでは、その後の数年が変わります。
- 初回訪問後に、書き足す:実際に会って分かったことを追記します。訪問前の資料は、必ず抜けがあります。
同行できないときの最低限
退職時期が迫っていて同行の時間が取れない場合、最低限これだけはやってください。
- 前任者から先方へ、一報を入れてもらう:メール1本でも、後任の立ち上がりが変わります
- 上位数社は、電話でもいいので前任者を交えて話す
- 「触れてはいけない話題」だけは、必ず聞き出す:これを知らずに踏むのが最悪のパターンです
そもそも、引き継げる状態にしておく
退職の申し出があってから慌てるのは、平常時に記録がないからです。日常的に次の3つを残しておくと、引き継ぎの負担は大きく下がります。
- 商談ごとに、決まったこと・決まらなかったこと・次の一手を3行
- 断られた案件は、理由を1行:これが最も価値のある資産です
- 登場人物の変化:担当が代わった、決裁者が代わった
記録を増やす話ではありません。3行です。これがあるかないかで、引き継ぎに必要な時間が数倍変わります。案件情報の残し方は案件管理の属人化で扱っています。
まとめ
- 顧客リストで渡せるのは会社名と連絡先だけ。商売を動かしているのは経緯。
- 書き残すのは8項目。特に「過去のトラブル」と「価格の経緯」が事故を起こす。
- 前任者に書かせず、聞き取って第三者が書く。
- 同行訪問を飛ばさない。難しければ、せめて前任者から一報を入れてもらう。
- 平常時に、商談ごと3行と失注理由1行を残しておく。引き継ぎ時間が数倍変わる。
営業の属人化は、私自身が当事者として経験してきた領域です。引き継ぎ資料ゼロの営業現場でやったこともあわせてご覧ください。ご相談は15分・無料から。