ベテランに「やり方を教えてください」と聞いても、返ってくるのは手順だけです。肝心の判断は「経験やな」「見たら分かる」で終わります。本人が出し惜しみしているわけではありません。長くやっている人ほど、自分の判断が無意識になっているからです。この記事では、その無意識を言葉にするための質問の仕方を、具体的な聞き方とあわせて解説します。
なぜ「教えてください」では出てこないのか
熟練者の頭の中では、判断が一瞬で終わっています。手順のように順を追って処理していないため、本人にとっては「考えていない」のと同じです。だから「どう判断していますか」と聞かれても、答えようがありません。
引き出すには、具体的な場面を先に置く必要があります。実際にあった1件を起点にすれば、そのときの判断は思い出せます。
効く質問の型:実例 → なぜ → 何を見て
この3段構えが基本です。順番を変えないでください。
- 実例を出してもらう:「直近1年で、想定外のことが起きた案件を3件教えてください」
- そのときの行動を聞く:「そのとき、何をしましたか」
- 判断の根拠を聞く:「何を見て、そう判断したんですか」
3番目が核心です。「なぜ」だけだと理屈を後付けされることがありますが、「何を見て」と聞くと、実際に目で確認しているものが出てきます。数値、色、音、書類のどの欄——ここが引き継げる形の情報です。
そのまま使える質問リスト
現場で使っている質問を、そのまま挙げます。
- 「これは確認しないと先に進めない、という項目は何ですか」——必須条件が出ます
- 「この条件なら進める、この条件なら止める、の線引きはありますか」——判断の境界が出ます
- 「これは危ないと感じるのは、どういうときですか。何を見てそう思いますか」——最も価値のある質問です
- 「人に相談するのは、どういうときですか」——自分で決める範囲の境界が出ます
- 「その順番でやる理由はありますか。順番を変えると何が起きますか」——工程の意味が出ます
- 「新人がよく間違えるのは、どこですか」——つまずきポイントがまとめて出ます
- 「過去に失敗したとき、何を見落としていましたか」——最も強い情報ですが、聞き方に配慮が要ります
聞くときの4つの原則
- 作業に立ち会いながら聞く:会議室で思い出してもらうより、手を動かしている場面で聞くほうが濃い情報が出ます。「いま、なぜそこで止めたんですか」がその場で聞けます。
- 15〜30分を複数回に分ける:2時間まとめて取らない。負担が大きく、後半は内容が薄くなります。
- その場で書き取る:あとでまとめようとすると、細部が抜けます。録音するなら、必ず事前に許可を取ってください。
- 否定しない・改善案を言わない:聞き取りの場で「それは非効率では」と言った瞬間、本音が止まります。改善の話は別の日にしてください。
身内が聞くと出てこない、という問題
社内の人が聞くと、次の3つが起きます。
- 「見れば分かるやろ」で終わる:同じ会社の人には説明する必要がないと思われます。
- 当たり前すぎて質問が出ない:聞く側も同じ前提を共有しているため、そこを疑う質問が出ません。
- 評価されると思われる:上司が聞くと、できない部分を隠す動機が働きます。
第三者が聞くと、この3つが外れます。「知らない人だから説明してもらえる」——これは技術の問題ではなく、立場の問題です。
聞いたあと、何に落とすか
聞き取った内容は、そのまま文章にしても使われません。中身によって形を変えます。
まとめ
- 「教えてください」では出てこない。本人にとって判断は無意識になっている。
- 質問の型は、実例 → 行動 → 「何を見てそう判断したか」。「なぜ」より「何を見て」。
- 作業に立ち会いながら、15〜30分を複数回。その場で書き取る。
- 聞き取りの場で改善案を言わない。本音が止まる。
- 身内が聞くと「見れば分かるやろ」で終わる。第三者が聞くと説明してもらえる。
ツグアスの診断では、この聞き取りを第三者として行います。実際に使う質問リスト26問を全文公開しているので、自社でやってみる材料としてもお使いください。