ISO9001を取得している会社では、力量管理と教育訓練の記録が求められます。ところが実務では、「審査のために作る書類」になっていて、現場では使われていないことが少なくありません。この記事では、同じ記録を技能継承の道具として使う方法を整理します。
なお、規格の要求事項の解釈や、自社に必要な記録の範囲については、審査機関・認証機関にご確認ください。ここで扱うのは、記録を実務で使える形にするための考え方です。
審査用の記録が、現場で使われない理由
よくある力量表は、人ごとの行で作られています。「Aさんはこの資格を持ち、この教育を受けた」という形です。これは審査では説明しやすいのですが、現場の判断には使えません。
現場が知りたいのは「この業務、いま何人できるんか」です。同じ情報でも、業務ごとの列で見ると、まったく別の道具になります。
- 人の行を見る:誰が何を持っているか → 審査の説明に向く
- 業務の列を見る:この業務ができる人が何人いるか → 危ない業務が一目で分かる
列を見て「1人しかいない」業務が、いま手を打つべきところです。作り方はスキルマップの作り方にまとめました。
「力量がある」を、どう定義するか
記録が形骸化する最大の原因は、力量の判定基準が曖昧なことです。「教育を受けた」「経験年数3年」では、実際にできるかどうかは分かりません。
判定は行動で書いてください。
- △ 「作業内容を理解している」 → 確認しようがない
- ◎ 「一人で最後までやり切り、○分以内に完了できる」 → 見れば分かる
- ◎ 「先輩の確認なしで、出荷の可否を判定できる」 → 判定者がぶれない
この形にすると、教育の有効性の確認も同時に済みます。基準を満たしたかどうかを見るだけだからです。
教育訓練の記録に残す4点
実務で使える最小限は、次の4つです。
- いつ:日付
- 誰に:対象者
- 何を:対象業務と、教えた範囲
- 有効性の確認:どの基準を、誰が、どう確認したか
4番目が肝心です。受講記録だけでは「教えた」の証拠にはなっても、「できるようになった」の証拠にはなりません。
「組織の知識」を、書類ではなく現物で持つ
ISO9001では、必要な知識を明確にし、維持することが求められます。ここで多くの会社が、知識の一覧表を作ってしまいます。一覧表は知識そのものではありません。
実務的に維持できる形は、次のような現物です。
これらは審査で示せる文書であると同時に、現場で実際に使われるものです。二重に作らずに済みます。
審査用と実務用を、二重に作らない
書類が二重になっている会社は多くあります。審査の前だけ整える一式と、現場で使う一式です。これは工数が倍かかるうえ、審査用のほうは実態とずれていきます。
統合する順番はこうです。
- まず現場で使うものを作る:判断表、作業標準書、チェックリスト
- 力量の判定基準を、行動で書き直す
- 教育の記録に「有効性の確認」欄を足す
- 審査で示すのは、その現物と記録
審査のために作ったものは現場で使われませんが、現場で使っているものは審査でも説明できます。順番を逆にしないでください。
まとめ
- 審査用の力量表が使われないのは、人ごとの行で作られているから。業務ごとの列で見ると危ない業務が分かる。
- 力量の判定は行動で書く。「理解している」ではなく「一人でやり切り、○分以内」。
- 教育訓練の記録は、いつ・誰に・何を・有効性の確認の4点。
- 知識は一覧表ではなく、判断表・作業標準書・トラブル記録・社内FAQという現物で持つ。
- 審査用と実務用を二重に作らない。現場で使うものを先に作る。
- 規格の解釈と必要な記録の範囲は、審査機関・認証機関に確認する。
「審査のための書類が、現場で使われていない」という状態からの立て直しもご相談いただけます。まずは15分の適合確認から。