「教える人によって、言うことが違う」「あの人に教わった人は伸びるが、別の人だと伸びない」——OJT(現場で仕事をしながら教える方式)を続けている会社で、必ず出てくる話です。原因は指導者の熱意ではありません。教える中身が、それぞれの指導者の頭の中にしかないからです。この記事では、指導者ごとのばらつきを減らす具体的な手順を解説します。
OJTがばらつく3つの原因
- 教える順番が決まっていない:ある人は簡単な作業から、別の人は現場全体を見せてから始めます。どちらも間違いではありませんが、新人から見ると「前の人と話が違う」になります。
- 到達したかどうかの基準がない:「まあ、できてるやろ」で次に進むと、指導者ごとに合格ラインが変わります。あとから「教わっていない」という食い違いが起きるのはここです。
- 教える側が、自分の判断を説明できない:熟練者ほど、無意識に判断しています。「見たら分かる」と言われた時点で、新人は再現できません。これがOJTにおける属人化の本体です。
指導者の暗黙知は、教育の場でこそ問題になる
属人化というと、担当業務が1人に集中している状態を指すことが多いですが、教育もまた属人化します。「あの人が教えたら伸びる」という状態は、褒め言葉のようでいて、その人が異動したら新人が育たなくなるという意味でもあります。
教える力は人柄だけで決まるわけではありません。上手い指導者は、説明の順番と、つまずきやすい箇所を経験的に把握しています。それを本人の中だけに置いているのが問題であって、取り出せば他の人も使えます。
ばらつきを減らす4つの手
- 教える順番を1枚にする:立派な教育計画は要りません。「1週目にこれ、2週目にこれ」を10〜15項目、箇条書きで並べるだけです。順番が共有されるだけで、指導者が代わっても続きから始められます。
- 各項目に「できた」の判定基準を書く:「理解する」ではなく、行動で判定できる形にします。「一人で最後までやって、○分以内に終わる」「先輩の確認なしで出荷判定を出せる」のように。ここが決まると、指導者ごとの合格ラインが揃います。
- つまずきやすい箇所を、事前に集めておく:指導経験のある人に「新人がよく間違えるのはどこか」を聞き、5〜10個メモしておきます。これが最も価値のある情報で、新人が来るたびに同じ説明をしなくて済みます。
- 「必ず守る」と「やり方は自由」を分ける:安全・品質に直結する部分だけを必ず守る側に置き、それ以外は複数のやり方があると明示します。混乱の多くはこの区別がないことから起きます。
教える側の負担を増やさないために
OJTの改善で失敗するのは、指導者に記録や報告を増やす形にしたときです。現場は忙しく、書類が増えれば真っ先に省かれます。
負担を増やさない原則は「書くのは1回、使うのは何回でも」です。順番表もつまずき集も、最初に1回作れば次の新人からはそのまま使えます。逆に、新人1人につき毎回書くものは極力作らないでください。記録を付けるなら、指導者ではなく本人に1行——これで十分機能します。
教育とマニュアルの関係
OJTの標準化は、業務マニュアルがあると一気に楽になります。手順が書いてあれば、指導者は手順を口で説明する時間を省き、判断とコツの部分に集中できます。
逆に、マニュアルがない状態でのOJTは、毎回ゼロから口頭で伝えることになります。「教える時間がない」の正体は、たいていこれです(他の要因は技能継承が進まない5つの理由に整理しています)。時間がないから書けないのではなく、書いていないから毎回時間がかかっています。
まとめ
- OJTのばらつきは、順番・判定基準・指導者の暗黙知の3つから生まれる。
- 教育も属人化する。「あの人が教えたら伸びる」は、その人がいなくなると育たないという意味でもある。
- 手は4つ。順番を1枚にする/判定基準を行動で書く/つまずき箇所を集める/必ず守る部分と自由な部分を分ける。
- 原則は「書くのは1回、使うのは何回でも」。指導者の記録を増やさない。
- マニュアルがあると、指導者は判断とコツの説明に集中できる。
「新人がつまずく箇所を、どう引き出して形にするか」からご一緒します。まずは15分の相談で、対象にする1業務を決めるところから。